SaaSビジネスのマーケティング・セールス企画スペシャリスト
【ゲスト】freee株式会社 畠山忠士さん
【インタビュアー】株式会社ビースタイル 代表取締役社長 三原邦彦
【ライター】 荒川雅子
畠山さんは、グーグル合同会社にて中小企業向け広告事業の立ち上げを経験後、国内大手Webメディア担当部署にて大手新聞社や放送系企業30社への広告マネタイズを支援。その後freee株式会社にて法人営業組織やカスタマーサクセス組織を構築され、現在はサポートサービス企画部門の責任者としてご活躍されています。SaaSビジネスのマーケティング、セールス企画の幅広いご経験をお持ちの畠山さんに、当社社長の三原が、これまでのご経歴やグーグル社のカルチャー、SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセス、サポートのデザインについてお伺いしました。
最初のキャリアはデータサイエンスによる再現性の高いセールスオペレーション構築
三原
最初のキャリアはどちらですか?
畠山
新卒でグーグルに入りました。主に中小企業に対する広告ソリューションの展開ということで、AdWords(現:Google広告)の既存ユーザー向けのアカウントマネージャーとして、セールスをしていました。
私が入社する以前、グーグルは大企業に対し人的リソースを多く割いていて、大手広告代理店と連携しながら広告予算を獲得していたんですが、私が入社した時は、これから中小企業セグメントにも大きく展開開始するぞというタイミングでした。
三原
グーグルさんって新卒を採っていたんですね。同期は何人くらいだったんですか?
畠山
私の時は新卒も4期目でして、エンジニア含めて30人くらいは採っていました。私のようなビジネスポジションは10名程度でしたね。
三原
そうなんですね。初めに着いたセクションでは、AdWordsの何を一番中心にやられていたんですか?
畠山
新卒が最初にアサインされるポジションはセールスとサポートの二つだったんですが、私はセールスに入りました。中小企業向けの営業戦略がグローバルでもまさにこれから決まっていく段階でした。
シリコンバレー本社のセントラルレベニューチームと呼ばれる部隊が、全世界で中小企業を攻略するためのフレームワークを決めていたのですが、私はそこと連携しながら、日本でAdWordsを使っている数万アカウントのうち、数百~数千アカウントを担当し、既存ユーザーにもっと効果を実感してもらって、より使っていただくための支援をしておりました。支援の結果、既存ユーザーからの売上があがるという仕組みです。
三原
一社当たりの売上金額を上げていくということですね。
畠山
そうです。セールスには、すごくざっくりいってですが、新規アカウントを開設するセールスと、既存のユーザーにつくアカウントマネージャーの二つがありました。
アカウントマネージャーの一人当たりの担当顧客数は数百から数千あり、そこに対して何を提供すると売上が上がるかを考えるんですが、これが結構サイエンスの世界なんです。サービスのどこを改善すれば売上にインパクトがあるのか、グループ単位でどうだったのか、みたいなものを、データサイエンティストと一緒に見ながら改善していくんです。
三原
なるほどね。どちらかと言うと、グロースハックに近いですよね。
畠山
そうですね。何が売上のキーになるのかをグローバルと比較しながら、それを実現するための営業フレームワークを決めていくという、営業企画的な側面の非常に強いところをやっていました。
三原
なるほど。お客さんにどれだけ使ってもらうかというのは、オプション開発が中心なんですか?
畠山
それ以前のステップにも改善点があったと思っています。
プロダクトを展開していく時、想定通り使ってもらえればパフォーマンスも出ますし、売上も立ちますけど、基本的な機能すら使えていないお客さんが沢山いるんですよね。なので最初は、正しく設定して、正しく使おうよ、というところからスタートします。一つ一つを改善することで売上が伸びることが証明されているので、営業というよりも最適化と言っていました。
グーグルで学んだ仕組みづくりとスケーラビリティ
三原
グーグルは、アマゾン、アップル、マイクロソフトと何が一番違いますか?
畠山
まず、企業カルチャーは全然違います。企業カルチャーが違うので、そこにいる人も全然違います。
プロダクトはどうかというと、例えばそれぞれの会社にクラウドサービスがありますが、正直言ってエンドユーザーから見ると違いはわからないんです。あとはもう本当に先行優位とか、コンペでどれだけ面を張ってるかとか、ミッションとか、そういう最後のところで差別化していくしかないんですよね。
三原
なるほどなるほど。やっぱり、会社のカルチャーがプロダクトにも出ている感じなんですか?
畠山
それはあるかもしれないですね。私が思うにですが、グーグルは根本にはどこか『プロダクトが良ければ結果ユーザーはついてくるだろう』というプロダクトアウトな考えが強くあると思います。アマゾンは多分そこまでではないだろうなと思います。
三原
なるほど、面白いですね。意外と顧客のニーズを取りながら、プロダクトを作る感じなんでしょうね。プロダクトアウトか、マーケットアウトか、みたいな。
畠山
そうです。マーケットアウトのほうが最初の伸びはいいんですよね。グーグルは基本的には後から伸びるんです。グーグルが展開するAdWordsをはじめとした広告ソリューションもそうだったんですけど、最初はオーバーチュア広告等、Yahoo!さんとかが既に日本のマーケットにどんどん入っていて、グーグルが来た時には今とは比べ物にならないくらい相手にしてくれない状態だったようです。
三原
後から追い上げられる仕事の仕方や戦略の立て方に、何かポイントはあるんですか?
畠山
セグメント攻略と属人性を徹底的に削ぎ落としたオペレーションの構築は非常にユニークなポイントでした。要するに、属人性がほぼ無いんですね。
三原
再現性100%。
畠山
はい、再現性を重視しています。基本的にはスケーラビリティを考えるので。新卒で入ったら、「自分の仕事を無くすのがミッションだよ」というのを叩き込まれる会社でした。なので、基本的にはどんどんベストプラクティスがグローバルで展開していって、その全てが尋常じゃなく早いんです。
三原
ベストプラクティスを全世界で共有するということですか?
畠山
全世界からセントラルに行って、セントラルが吟味して、全フレームワークを変えていくという感じでした。入った時は普通だと思っていましたが、グーグルを出てから、「あそこの会社はとんでもないことやっていたんだな」とわかりました。
三原
「自分の仕事を無くす」というのは、全部の仕事を仕組み化するということですか?
畠山
それに近いと思います。基本的に仕事は可視化されているべきであり、フローステップについてはトレーニングのサイクルも含めて、ちゃんとそれができている状態。その上で、リソースアロケーションが戦略に基づいて適切にできていることが基本です。
例えば、キーアカウントは正社員のシニアのメンバーがお客さんとのリレーションを築きながらやりますが、そこもちゃんとCRMベースで可視化して、どういう提案をしたら取り上げられたか、跳ね上がりがあるかもちゃんと蓄積して型にしていく。ベンダーさんがやる場合も、全員が統一された提案ができるようにしていくというのが大前提です。
三原
なるほどね。グーグルさんにはどれくらいいらっしゃったんですか?
畠山
グーグルには2014年まで4年おりまして、その後freeeに入りました。
営業企画は収益を生む出すエンジン
三原
freeeさんにいながら、フリーランスでもいろいろな分野でご活躍されているんですね。一番得意な仕事や楽しい分野ってどこなんですか?
畠山
BtoBにおいて、収益を生み出すエンジンって、マーケティングも含む営業企画だと思うんですけど、そこのプランニングがめちゃくちゃ面白いんです。
三原
なるほどですね。最初に入ったポジションも良かったですよね。
畠山
そうなんですよ。そこにどうサイエンスを加えていくかを考えるのも好きです。freeeでも早々にセールスフォースを入れたんですけど、付いている機能をどううまく活用するかは企業さん次第なんですよね。それは工夫次第というところもあって、そのプランニングをする人が理想像を持っていないと、設計のしようがない。
僕はこの理想を考えるのが大好きなんです。属人性を排除しながら、しっかり数字を獲得していくためのフレームワークを作っていくにはどう設計したらいいのか、どう評価するのか。それがSaaSっていうビジネスモデルとガチっとハマって、めちゃくちゃ面白いなと思ったのがきっかけです。それ以外の会社さんでもそういうところに課題があるのかなと思った時に、その課題にすら気づかれていない会社さんが多かったので、そういったところのご支援をしています。
三原
なるほどですね。でも、未だにサイエンスを持ち込んでいない会社さんもいっぱいありますよね。全てのプロセスである程度のデータが取れないと、サイエンスできないですしね。
畠山
できないです。それは本当に痛感しましたね。
私がfreeeに入った時の最初のミッションは、20名くらいの法人営業組織の立ち上げだったんです。それで、電話営業をしようとしたら、freeeは初めは無料サインアップで、そこから有料版を使っていただくビジネスモデルだったので、ユーザーさんの情報がそもそもメールアドレスしかなかったんです。
それで、まずは電話をできるお客さんを作るために、無料サインアップに任意で電話番号を入れられるようにして、入れてくれた人にだけ電話営業をしました。営業も型が無い中でやってみましたが、全然うまくいかないんです。お客さんの管理もスプレッドシートやっていて、失敗する訳です。「この人は何が課題だったっけ?」「また同じ人にアプローチしちゃった」「この人はフォローアップ漏れだ」というのがどんどん出てきて。それで、入って二週間でセールスフォースを入れました。そこからようやく顧客を評価していくフェーズがスタートしました。
三原:なるほど。
SaaSビジネスにおけるカスタマーサクセスとカスタマーサポート
畠山
SaaSビジネスにおいて、収益を生み出す組織フォーメーションとして、よくマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスが語られます。あとプロダクトやサービスを展開する時には多くの場合上記に内包する形でカスタマーサポートが存在するんですね。
三原
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは全然違うんですか?
畠山
ここはちょっと考えを整理する必要があります。SaaSにおけるカスタマーサクセスとカスタマーサポートでは、両方とも同じく契約後のユーザーに向き合っているんですが、役割としてはカスタマーサクセスという組織・機能の中にカスタマーサポートが位置付けられるというのがあります。
いわゆる昔のポストセールスやコールセンターみたいなものがある訳ですが、私が今やっているのは、SaaSビジネスに適した形でカスタマーサクセス、カスタマーサポートをどうデザインするかという部分です。
SaaSの場合、既存顧客をどう積み上げていくかという話であり、クラウドベースでどんどん進化していくプロダクトには、カスタマーサポート無しでは語れないのです。お客さんが能動的にfreeeというサービスを使おうとする過程には、いろんな課題が発生しています。そこで、それらの課題を迅速に解決していき、カスタマーサクセスと導いたあるべき道に戻していく必要があります。
SaaSビジネスでは、売上がイニシャルで数億円入るオンプレミスのようなビジネスモデルではなくて、一人のお客さんからいただける都度の収益は少額です。なので最初は赤字でも、ユーザーが継続的に利用をしていくことで、Jカーブを描いて黒転していくモデルを描いていくようにしていきます。そういう意味でいうと、カスタマーサポートも大規模なコールセンターのように、何でも人がお答えしますという形だと生産性を著しく圧迫してしまい、ビジネスモデルとして成り立たないので、すごく生産性の高いサポート組織でなければ、お客さんの問い合わせを受けちゃいけないんですよ。
三原
なるほど、そうか。確かにね。
畠山
面白いですよね。そして、問い合わせが来ないようにするためには、プロダクトにおけるユーザーエクスペリエンスを改善しなければならない。そもそもやりたいことが自分でできる世界を作らなきゃいけないし、トラブルが起きても自分で解決できるようにしなきゃいけない。それでも、どうしても人が介在しないといけない問題に対してだけ、しっかりサポートが対応する形にしなきゃいけないんです。SaaSにおいては、サポートは原価になるので。すごく会社の競争性に影響するんですよ。
三原
なるほどね。畠山さんは今後のキャリアはどう考えてるんですか?
畠山
BtoBにおいて収益を生み出すエンジンづくりや、そのサイエンスのところを軸にビジネスを伸ばしていくところが、結構僕の中で良いテーマだと思っていて、既存のキャリアの延長上でこういうのをやっていけたらと思っています。例えば、それはもしかしたら投資をさせていただく立場かもしれないですし、もしくは経営として事業に入って一から設計していくこともあるかもしれないですし、それも面白いなと思っています。
三原
なるほどですね。応援したい会社とか、分野としてジョインしてみたい業界はありますか?
畠山
SaaSは全般的に好きですね。後はそこからどういうプロダクトや、業界における課題があるのかをいろいろ見ていきたいと思っています。応援したい会社は結構ありますね。ビジネスモデルが美しい会社さんも沢山ありますし。
三原
美しいビジネスモデルには惹かれますよね。
畠山
惹かれます。経営者ってこのビジネスドメインで良かったんだっけ?って悩むじゃないですか。なかなか真っすぐにやられてる会社さんが少ない中で、良いところ、良いタイミング、良いプロダクトを見つけたな、と。
三原
なるほど。確かにそれは応援したくなるかもしれないですね。
是非これからも、たくさんの企業様を支援していってください。
経歴
グーグル合同会社
・中小企業向け広告事業を米国本社と連携しながら立上げを経験
・60社の広告代理店マネジメントを担当
・国内大手Webメディアを持つ30社の広告マネタイズ支援を担当
freee株式会社(現・サポートサービス企画部門の上級部長)
・BtoBセールス組織、カスタマーサクセス組織の立ち上げと運用マネジメント
・BtoBマーケティング組織、事業企画のマネジメント
・プロダクトUX改善、AIによるユーザー問い合わせ削減
サポートオペレーションの生産性改善を軸に全事業の粗利率最大化に責任を持つ
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