社員が育つ仕組づくりのファシリテーター

【ゲスト】松嶋活智さん

【インタビュアー】株式会社ビースタイル 代表取締役社長 三原邦彦

【ライター】 荒川雅子


松嶋さんは自動車部品メーカーで開発研究職をご経験後、コールセンターのアウトソーシング企業に就職。その後、日本マイクロソフト株式会社ではコールセンターのマネジメント、ソーシャルメディア担当、営業部門でのBtoBマーケティングなど幅広い業務に従事されました。今回は当社社長の三原が、さまざまな企業の経営支援やBtoBマーケティング設計に取り組まれている松嶋さんにこれまでのご経歴、現在のお取り組みについてお聞きしました。


自動車部品メーカーの研究職からマイクロソフトへ

三原

まずは、松嶋さんのこれまでのキャリアを教えてください。


松嶋

大学卒業後は自動車部品メーカーに入社し、自動車の潤滑剤の開発・研究をしていました。

まさに化学の分野です。


三原

すごくマニアックですね。

今のキャリアとは全然違う分野ですね!


松嶋

そうなんですよ。(笑)

ここで働いていた時に、大きな気づきが二つあったんです。

一つは、研究でデータベース管理のために「Microsoft Access」を使った時に、「IT凄いな」と思ったことです。それまでは過去の研究結果を全部ノートに書いていて、これまでどんな配合をしたのかノートを見ないと分からなかったんです。それをAccessで管理するようになって、三か月ぐらいで全部の配合終わっちゃったんです。


もう一つは、営業に同行してお客様のニーズを聞きにいったところ、僕たちが作っていたものが、お客様の欲しがっているものと全然違うことがわかって。そこから、ITとコミュニケーションを学びたいと思ったんです。


それで、次にマイクロソフトのアウトソーシングベンダーのコールセンターに入りました。ここではITとコミュニケーションを学ぶことができて、僕のキャリアの基礎になっています。


三原

なるほど!それから現在のキャリアをスタートしたんですね。


松嶋

はい。最初はインフォメーションセンターといって、製品のお問合せ窓口に入りました。当時、ITは全部マイクロソフトという感じだったので、全く関係のないソフトウェアやハードウェアの質問まで、とにかく何でもお問合せが来るんです。ここで、お客様の話を理解して内容を切り分ける能力と、ITのスキルがかなり高まりました。OfficeやWindowsから、サーバー製品や開発製品、あとゲームに至るまで、全製品。ありとあらゆるものを学びました。


三原

確かに、めちゃくちゃ知識深くなりますね。


松嶋

その次は、サブスクリプションのフルフィルメントセンターに入りました。フルフィルメントセンターでは入金・登録・出荷の手続きから、ウェブサイトの運営、コールセンターまで全部やっていました。オペレーション設計やプロジェクト設計をそこでかなり学びました。


三原

なるほど。その後はマイクロソフトに入られたんですよね?


松嶋

はい。その会社を辞めてしばらくしたとき、インフォメーションセンターを担当していたマイクロソフトの社員とたまたま会って、「うちに来ないか」と声をかけていただいたんです。それで受けてみたら、本当にそのまま入っちゃったので、とても運が良かったです。


三原

マイクロソフトでは、どんなことをされていたんですか。


松嶋

やったことは大きく分けて三つあります。

一つ目は、コールセンターのマネジメント。

二つ目は、ソーシャルメディアでのサポートやマーケティング。

三つ目は、かなりBtoBに特化した、営業部門に近いマーケティングです。


三原

コールセンターから、どちらかと言うとマーケ、セールスといった、売る方のキャリアを積んでいったということですか。


松嶋

そうですね。コールセンターでいくらフィードバックしても、そもそもメッセージが間違って伝わっていることが多いことがわかったので、もう少し前から変えないと駄目だと思ったんです。それで少しずつ前に移っていった感じですね。


三原

なるほど。確かに、マーケティングやプロダクトのほうで変えてもらわないと、根本的な解決にならないということもありますもんね。


松嶋

そうなんです。本社が作った製品がローカライズされて入ってくるので、変えるとしたら、マーケティングメッセージやスペックの出し方といった部分でしか防げないんですよね。

あとは、マーケティング段階でのフィードバックをソーシャルメディアでどう引き上げるかみたいなところをやっていました。一番多かったのが、Windows10のリリースの時です。アップグレードの仕方などで賛否両論あったので、Twitterのユーザーボイスを全て収集して、どうやったら改善できるかを日々分析しました。Windowsのβ版が出た時のフィードバックも、そういうプロセスを経て、本社に修正依頼をかけることができました。



マイクロソフトの仕事の進め方

三原

仕事の進め方において、マイクロソフトは何が一番優れていると思いましたか?


松嶋

マイクロソフトは仕組みづくりが本当に上手いです。もちろんみんな個々の能力は高いんですが、本社側で人の行動をきちんと設計しているので、仕事がスムーズに回るんです。基本的にグローバルが決めたものを、各国にローカライズして展開しています。


三原

本国と日本って全然違うじゃないですか。どうやって機能させるんですか?


松嶋

そうですね。本国で持つ機能、ローカルで持つ機能、オペレーションセンターで持つ機能がしっかり分けられているところがとても良くできていると思います。

本国が持つ機能は、製品開発や一定のオペレーションなど、本当に肝の部分で、マイクロソフトがグローバル単位で決めているものです。これを24時間回せるように、世界三ヶ所で展開しています。例えば、マーケティングツールでメール配信の依頼をかけたら、日本からだとインドに依頼が飛んでいって、そこから配信されます。


三原

なるほどね。その仕組み化力はすごいですね。


松嶋

全体最適はよく考えられていると思います。ローカルでやってたときとのオペレーションの違いでフラストレーションがある場面もありますが、相当高いレベルで仕組み化されていると思いましたね。


三原

トータルで利益を出そうとすると、国ごとの個別最適を作っていたら利益も出なくなるし、スピードも落ちるでしょうしね。


松嶋

そうですね。日本ってミスを出さないようにやると思いますが、アメリカの場合はミスがあったら直すというスタンスなんです。面白いのが、何かサービスをローンチするときに、最初にクレームが上がるのは、大体日本、韓国、ドイツの三国なんです。


三原

細かいオペレーションが得意そうな国ですね。


松嶋

はい。特に日本・韓国が多くて、当初はなかなかフィードバックを理解してもらうところまで行けない場合もあるんですが、一ヶ月後にはそのフィードバックが生かされることが多いです。


三原

なるほどね。早めにミスや問題に気付ける細かさは、日本人の良いところですね。


社員の成長を本気で考えるマイクロソフトの組織設計

松嶋

特に、マイクロソフトは、組織設計の仕組みが本当に良くできていました。

マネージャーの集合研修が年1~2回あって、そこでは「部下の成長を支援しなさい」と口酸っぱく言わるそうです。やっぱり、社員が成長しない会社が成長するわけがないんですよね。

だから1on1で面談をする時には、必ずキャリアディスカッションを行って、社員が今できることではなく、将来何がやりたいか、未来を見据えた数年先までのキャリアプランを書かせます。そして上司には、社員のプランの実現を支援する義務があります。


三原

なるほど。部下の成功を応援し、キャリアを作ることが、上司の仕事でもあるということですね。何故日本にはそういうキャリアリード力が無いんでしょうか?


松嶋

日本はハイコンテクスト文化なので、コミュニケーションにおいては会話の文脈を読むことが求められます。「ツーカーで通じる」とよく言われるように、「成長したいなら俺の背中見ろ」という風になってしまうんです。


三原

それは、指導することをサボっていますよね。


松嶋

自分が教わってないから、そもそも頭の中に無いんだと思います。日本の場合は、経営者の6~7割が営業出身です。営業は「習うよりも慣れる」という傾向が強いので、そういう部分は得意ではないんです。でもそういう会社こそ、仕組みを入れると絶大な効果を発揮します。

やること自体はそんなに難しいことではないんですが、マイクロソフトはそれを浸透させて、定着させて、繰り返しやっていくところが上手いんです。

僕も初め、「こんなに面倒くさいことをやらせて、いったい何を監視しているんだろう」と思っていました。でも、全てが社員の成長を本気で考えて設計されていることを知って驚きました。


例えば、KPIを設計させるのも、社員に守らせるためではなく、社員の成長を本気で考えているからです。KPIがあれば自分の成長を見ることができますし、それを他の人に見てもらうことによってその人への信頼も高まりますよね。


だからキャリアプランも、単に会社に貢献するために書かせるのではなくて、上司と部下、部下と上司の相互コミュニケーションツールの一つなんです。社員の成長を本気で考えているというところが、マイクロソフトで働く中での大きな学びだったので、今はそれを経営の支援をする際に入れています。


三原

なるほどですね。


松嶋

実際に何社かに導入したところ、経営者の方から「何故こんなに社員が前向きに働くようになったんだ」と聞かれました。理由はとてもシンプルで、それまでは社長の指示通りに働いていたのが、会社が自分のやりたいことを支援してくれるというマインドに変わったんです。


三原

自ら能動的に考えて行動するようになったわけですね。


松嶋

そうです。社員に「何をしたら成長できると思う?」と聞くと、大体は「勉強します」という回答が来るんですが、「何か会社がしてあげられることはある?」と聞くと、結構出てくるんです。


例えば、「試しにこういうことをやってみたい」という意見が出たら、それをやらせてあげます。そうすると、それは本人がやりたいと言ってやったことなので、本気でやって、あっという間に成果が出るんです。同じことをこちらから指示をしてやらせても、そう上手くはいきません。アメリカは、その辺の行動設計がすごく良くできています。


誰でもできる仕組みで、仕事をもっと楽しく

三原

どうしてマイクロソフトを辞められたんですか?


松嶋

マイクロソフトで働いている中で、やりたいことが出てきたんです。それは、「誰でもできる状態にすること」です。世の中には良いものがたくさんあります。例えば、経営コンサルティングに関しても、さまざまな手法があって、でもそれを中小企業に持ってきてそのまま使えるかといったら使えないんですよね。


もちろん、大企業でも使えないことも多いです。それはリテラシーの問題もありますが、一番の理由は、理想が高すぎることです。僕は理想形を構築することよりも、実践して、人の行動を変えて、成果を発揮できて、それを継続できることこそが重要だと思っています。


三原

なるほど。何故そういう思いが沸き起こったんですか?


松嶋

マイクロソフトの後半は、BtoBで働き方改革のマーケティングをしていました。しかし、世の中の人はマイクロソフトのツールだけを使っているわけではないので、マイクロソフトだけではできない領域があると気付いたんです。例えば、SlackとGsuiteを使っている人がいて、二つを連携すればすごく簡単なのに、連携の仕方がわからないからそれぞれのデータをコピペしていたり。


でもこれは知っているかどうかの問題で、やり方を覚えてしまえば、難しいことではない。僕は、それを誰でも使えるレベルまで落として、人に提供したい。そういう問題解決を支援するための仕組み作りをしたいと思っています。


三原

なるほど。具体的には、どのような仕事をされているんですか?


松嶋

やりたい事はいくつかあるんですが、様々な企業様に提供できることとしては大きく二つあります。


一つ目が、経営支援。ここでは、経営の方にも四つのフレームワークをご用意しています。

まずは、理念と戦略を結び付けて、社員の一体感を生み出します。次に、カスタマージャーニーマップを作り、社員が焦点を合わせてお客様と向き合えるようにします。三つ目に、キャリアプランです。社員が作るプラン、マネージャーが作るプラン、経営者が作るプランを全部共有して、コミュニケーションをしながら社員の成長まで作っていくことを仕組み化していきます。そして最後に、フィナンシャルダッシュボードを作ります。リードやパイプラインから売上までを視認化させます。

やること自体はすごくシンプルです。ただ、やり方をファシリテートする人がいないといけないので、そのファシリテートをさせていただきます。


三原

理念開発なんかも全部ファシリテートするんですね。


松嶋

そうです。やはり根底には、誰でもできる状態にしたいという思いがあるので、コンサルタントとしてずっとお金貰うのではなく、仕組みを根付かせた後はできるだけタッチを減らしていって、自分達でできる状態にしてあげたいと思っています。


三原

なるほど、能動的に活動する状態を作りたいってことなんですね。組織そのものに自立した考え方を持たせて、社員も精神的に自立させたい。


松嶋

そうなんです。社員が根付いてくれると新規事業を作れます。そういう人は周りを巻き込んでくれるので、周りの社員も成長して、良いコミュニケーションができて、前向きに働く人が増えていきます。そうすると、勝手に会社は大きくなっていきます。


そして、ビジネスの二つ目は、BtoBのマーケティング設計です。

BtoBマーケティングって結構難しくて、“誰に”“何を”響かせるかを考えないといけないのですが、みんな“何を”響かせるかばかりに目がいってしまうんです。例えば、決裁者じゃない人にいくら響かせても成約には至らないですよね。ここは、ちゃんと仕組みさえ作ってしまえば、あとはPDCAを回すだけです。


三原

なるほどね。松嶋さんは、業務を仕組み化していくことが好きなんですか?


松嶋

はい。僕はあまり優秀じゃなかったので、優秀じゃないのにいろいろな仕事ができたのは何故だろうと考えたら、サポートしてくれる仕組みがあったからだと気づいて。普通の僕でもこういう風になれた。だから、より多くの人に提供したいと思ったんです。


三原

もっと効率的に結果が出るんじゃないか、ということですね。


松嶋

はい。あと、もっと楽しく仕事ができるようになると思っています。

僕は、働いている時にバリュー(価値)を提供したと感じられることが、仕事の楽しさを感じるうえで一番大事だと思っています。この仕組みをやると、そこをシンプルに最大化できるし、今までやっていた同じ作業も、自分のやりたいことになっていきます。自分もそれを良い経験として得た側なのでそれをできるだけ広めていきたいなと思っています。


三原

いろいろと勉強になりました。ありがとうございました。


【経歴】

NOK株式会社

・潤滑剤の開発に従事

・配合を管理するためのAccess DBを新規作成


株式会社メディアコミュニケーション

・マイクロソフトをクライアントとするアウトソーシング部門のアカウントマネージャーとしてチームリードし、品質管理担当、オペレーターとして業務に従事


日本マイクロソフト株式会社

・Office365のマーケティングを担当(デジタルマーケティング、イベント、セミナー)

・コンシューマー向けサポート部門のコール センター運営及びソーシャルメディアやオンラインコミュニティの立上げ、運営に従事


その後は、社員、取締役、業務委託など複数の契約形態で、企業の経営課題の改善支援に取り組む

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