デザイン思考×新規事業開発のプロ
【ゲスト】株式会社Ringfish 中澤雄⼀郎さん
【インタビュアー】株式会社ビースタイル 代表取締役社長 三原邦彦
【ライター】 荒川雅子
中澤雄⼀郎さんは、IMAGICA、ヤフー、損保ジャパン日本興亜で20年以上に渉り映像作品やWebサービス、スマホアプリ、新規事業の企画・プロデュースに従事し、通算100件以上のプロジェクト、30件以上のサービス、3件の新規事業創出に携わってこられました。
また、500万人が利用するWebサービスの事業責任者、デザイン思考などの研修講師や地方創生プロジェクトのファシリテーターなども担当されています。
今回は当社社長の三原が、中澤さんのご経歴やデザイン思考の考え方、それをベースにしたイノベーションを起こすためのトレーニング法などについてお聞きしました。
テレビ番組から保険まで、あらゆる新規事業をプロデュース
中澤
元々は、映像の企画・制作を行うIMAGICAでテレビ番組の編集などを担当した後、CS放送の「食チャンネル」の開局に際し、立ち上げスタッフとして料理番組などの企画立案や制作のプロデュースをしていました。
その後、ネット時代になることを予感し転職を考えたのですが、当時ヤフーがグルメ領域を苦手としていたので、自分なら何とかできるんじゃないかと思い、ヤフーへの転職を決めました。
三原
ヤフーでも、クックパッドや食べログのようなサービスを作ろうと考えていたんですか?
中澤
そうですね、当時はまだ食べログさんが出る前で、ぐるなびさんやホットペッパーさんとガッツリ競合していました。
ヤフーはチャネルが弱いので、コンテンツ集めがしんどかったんです。それで、タウンページのデータを全部入れちゃえということになってですね。ユーザーが多いので、「ユーザーに投稿してもらおう」みたいなコンセプトで、口コミサイトを作っていきました。
三原
なるほどね。主に中澤さんが担当していたのは、どんな仕事だったんですか?
中澤
基本的には、企画です。最初は企画からディレクション、プロデュースまで全部やっていたんですけど、だんだん事業統括の方にかわりました。
人数もあまり多くなかったので、事業計画や年間計画の立案から個別の機能改善まで、戦略と戦術の両方をやっていました。
三原
基本的には、グルメサイトの広告収入というビジネスモデルですか?
中澤
サイトの広告のほかに、予約電話が入ると、お店から直接1コールあたりの料金をいただく「コール課金」というビジネスモデルを国内で初めて導入しました。ぐるなびと競合しないように、基本的に全て成果報酬に切り替えたんですが、気が付いたら食べログがわーっと伸びてきてしまいまして。そこは自分の中では至らなくて、悔しかったところですね。
三原
その後はまた全く違う畑なんですね。なぜ損保ジャパンに?
中澤
当時のヤフーは、引退までずっといる人もいない状況で、この先ヤフーにいるイメージがあまり湧かなかったんです。それから、ヤフーは会社の力が強かったので、自分自身の力がどこまで通用するかを試してみたいという気持ちもありました。
そうしたら、ちょうど損保ジャパンがウェブマーケティング推進担当を募集していたんです。かなり自由にやらせていただいたので、非常に勉強になりましたね。
三原
それでは、損保ジャパンに入ったときは、初めはネット広告の強化がメインだったんですか?
中澤
広告というよりは、元々の旧態依然のホームページを全面リニューアルして、SEO対策をして、集客していくというところです。その後、ビッグデータが重要なバズワードになった頃に、「ビッグデータで何かをやろう!」ということで、自動車保険の商品開発部門に異動しました。
三原
そこでまたいろいろ商品開発されたんですね。
中澤
そうですね。ただそのときは保険ではなく、ビッグデータでの新規事業というお題だったので、部屋にこもって部下と二人きりで毎日企画を考えていましたね。
保険って基本的には事故を起こした後のケアをするというサービスなんですけど、時代的には「そもそも事故を起こさないようにするほうが大事でしょ」という流れだったんです。
そこで、「ビッグデータを活用して事故を未然に防ぎます」ということで、安全運転支援サービスを立ち上げました。ドライブレコーダーを社用車につけてデータを取得しながら、良い運転するとポイントが貯まってギフト券をもらえるようなサービスです。「ドライバーが良いことをしたらちゃんと褒めましょう」というコンセプトで企画したところ、非常に評価されて、賞もいただきました。
徹底的にユーザーと向き合う、デザイン思考
三原
商品開発のメソッドはお持ちなんですか?
中澤
イノベーションを起こすためのメソッドとして非常に注目されている、デザイン思考をベースにしています。一言でいうと、『革新的なアイディアを生むための発想法』です。
三原
すごいですね。その授業、受けたくなってきました(笑)
中澤
元々はデザイナーがやっていた発想法です。
デザイナーには、必ずクライアントがいて、クライアントにはそれぞれのニーズや目的があると思うんですけど、彼らは正解のないビジュアルデザインという領域で、クライアントに喜んでもらえるものを作り上げることに長けているわけです。いわゆる正解や答えのないもので目的を達成するために、デザイナーがやっていた方法をビジネスに応用したのが、デザイン思考です。
デザイン思考の基本は、徹底的にユーザーや顧客に寄り添うことです。
三原
お客様のヒアリングから始めるということですか?
中澤
そうです。定量アンケートだけを使うのではなく、一人の人間に向き合って、徹底的に深堀りするんです。特に価値観や感情に絡む部分ですね。
三原
ヒアリングのコツとかってあるんですか?
中澤
例えば、仮説があっても一旦置いておいて、絶対に誘導尋問はしないこと。質問をするときは、ひたすら「なぜ」を繰り返すんです。「なぜ」を突き詰めていくと、本人は当たり前だと思っていることが、実は稀有な潜在ニーズだったことがわかったりするんです。
三原
顕在的なニーズよりも、行動の動機となる潜在的なニーズをヒアリングしていくんですね。
中澤
そうですね。面白い事例があって、貯金がうまくできない人のために、アメリカの銀行が端数を勝手に貯金できるサービスを始めて、大ヒットしたんです。
その発想は、家計簿に端数をつけるのが面倒くさい人が端数を切り上げて残ったお金を貯金していたり、公共料金の支払いを間違えるのが嫌だという人が、端数を切り上げて多めに振り込んでいたりしていたという調査結果から生まれました。端数だったら自動的に貯金されてもそんなに困らないし、すごく自然に貯金ができるんです。
三原
へぇ~、面白い!人間のDNAのようなものをあえて活かしているところが素晴らしいですね。
デザイン思考の原点は、戦後日本のイノベーション
中澤
ここ20年ほどの間、日本の大手企業の多くは、既存ビジネスの業務効率化を推進してきたので、新しいことに挑戦しているところが非常に少ないと思うんです。
その前はバブル期だったので、頑張れば結果が返ってくる時代。本当にイノベーティブだったのは、そのさらに前の、戦後にゼロから立ち上がった世代です。
スタンフォード大学の先生によると、デザイン思考は、元々日本のイノベーションに圧倒されて、これはまずいということで日本を研究して、体系化したものなのだそうです。確かに、本田宗一郎さんも「市場調査しても意味がない。現場に行って、観察しろ」と仰っています。
でも、そういう方々は引退されて、今経営層にいるのは、新規事業への挑戦よりも既存事業の効率化を進めてきた方々です。今は潤沢な内部留保があったとしても、新規事業に投資していかないと、いずれ行き詰まってしまうんじゃないかと思っています。
新規事業を開発するためのメソッドとして、デザイン思考は非常に優れていると思っているので、これをどんどん国内に広めていきたいですね。
三原
ここ最近でいうと、既存事業が陳腐化するスピードも早まっていますよね。突然競合が登場して追い抜かれてしまったりすることもあるので、恐ろしいですよね。
ご依頼は、大手企業が多いですか?
中澤
圧倒的に大手企業が多いですね。
イノベーティブな仕組み化が遅れていたり、オープンイノベーション系の取り組みも、なかなか上手くいっているところは少ないですね。
三原
それは何故なんでしょう?
中澤
それは、担当者が実際にイノベーションをやったことがないからなんですよね。やったことがないことをトレーニングせずに、既存事業と同じ発想でやってしまうんだから、それは上手くいかないですよ。
三原
確かにそうですよね。失敗するのが苦手という人が多いのもあるんでしょうね。成功確率だけを追っていると、つまらない凡庸な事業になってしまいますもんね。
中澤
そうですね。それこそ競合がやっているような事業をやってしまったり。
三原
そうそう。既存事業と何が違うんだという話になるでしょうしね。
でも、革新的な事業には、周りに反対を押し切ってやられたということも多いですよね。
そう考えると、周りの人が反対することこそが、ある意味チャンスだったりすることも多いんですね。
誰でもイノベーションは起こせる
三原
実際、新規事業を考えることができないという会社も結構多いと思います。
そういう会社をご支援する場合は、デザイン思考のフレームワークを教えて、バンドルして、仕組化していくということになるんですか?
中澤
そのイメージで考えています。一般的にコンサルティングというと、コンサルタントが手を動かすものだと思われていますが、僕が新規事業立案の方法を教えた後は、自社内で出来るようになってもらいたいと思っています。
三原
なるほど。それでは、実際に「新規事業を立ち上げますよ」というときには、フレームワークを使いながら、ファシリテーター的に入るということですね。
中澤
そうですね。最終的に僕がいらなくなったら大成功です。
そうでないと、意味がないと思っています。
また、デザイン思考の良いところは、再現性があるところです。
僕も初めは、企画立案に必要なのは、ずっとセンスだと思っていました。もちろん中には一発ですごい企画を出すセンスのある人もいますけど、そんな天才はなかなかいません。
でも、デザイン思考なら天才がいなくても、チームの力を最大限に引き出し、イノベーションを起こすことができるんです。
三原
なるほど。なぜチームだとイノベーションが起こるんですか?
中澤
イノベーションを起こすということは、ものの考え方の発想の枠を超えることですよね。一人では非常に難しいですが、チームの場合、他の人は自分と全く違う視点でものを見ているので、枠を超えやすくなります。同じような人ではなくて、いろいろな職種や業種の人を集めて、さまざまなものの見方を活かすようなチームビルディングをすると、よりイノベーションを起こしやすいでしょう。
三原
なるほどね。組織でやる以上、そうじゃないと意味がないですもんね。これからはこういう需要が多くなるかもしれませんね。
中澤
イノベーションを起こすためのデザイン思考のフレームワークを提供し、仕組み化し、
ゆくゆくは社内で誰でも事業開発出来る。そんなご支援がしたいと思っています。
【経歴】
株式会社イマジカ
CS放送「⾷チャンネル」の立上げを担当
ヤフー株式会社
事業統括として、「ヤフー!グルメ」の企画・プロデュースを担当
損害保険ジャパン⽇本興亜株式会社
Webを活⽤したマーケティング企画を担当後、新規事業開発に従事
<開発サービス例>
・ソフトバンクかんたん保険
・スマートフォンアプリ「トラブルCh」
・安全運転⽀援アプリ「Safety Sight」
・法⼈向け⾃動⾞事故予防サービス「Smiling Road」 等
エルテックス株式会社
新規事業の⽴案、および社内新規事業企画コンテストの運営、メンターを担当
⼀般社団法⼈アイリーニ・ユニバーシティ/CEO
デザイン思考などのイノベーション創出⼿法の研修・ワーク ショップの運営および講師
株式会社Ringfish設立/代表取締役
デザイン思考の研修や新規事業のコンサルティングを提供
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